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奇跡の生還 本社ケ丸  1631m  2006/3/24



コース&タイム;笹子駅7:40〜変電所8:45〜清八峠登山口9:00〜沢を遡行〜道なき無名尾根〜11:50主稜線鞍部
〜12:20本社ケ丸山頂12:40〜13:20清八峠13:30〜14:30小沢横断ヶ所14:40〜15:50笹子駅
所要時間;8時間強


本社ケ丸(ホンジャガマル)は中央線笹子駅の南に聳える山。御坂山塊の三ツ峠に隣接し、鶴ケ鳥屋山(ツルガトヤヤマ)と結ぶ山稜は高度を保ち、独立した山域をなす。
私には初めての山域であるが、以前からその名の響きに惹かれていた。
眺望に恵まれ、アプローチも悪くはないのだが、何故だかあまり歩かれていないようだ。その理由が気にかかる。
今回の私の計画は、笹子駅から歩き出し、変電所奥の登山口〜清八峠〜本社ケ丸〜鶴ケ鳥屋山〜初狩駅へと縦走する、やや長いコースである。
だが、私は出足から登山道を見失い、道無き無名尾根を長時間ヤブ漕ぎし、そのあげくに主稜線への取り付けヶ所で窮地に陥ってしまった。
山頂はかろうじて踏んだものの、縦走を続行する気力・体力・時間ともに失せてしまい、清八峠から笹子駅へ本来の登山道を下山した。

  
     山頂から御坂方向を望む、右奥に釈迦ケ岳                  山頂にて



青春18きっぷを利用して、大船を5時過ぎの早朝上り電車で出発、横浜〜東神奈川〜八王子〜高尾とスムースに乗り継ぎ、高尾始発の松本行き電車に間に合う。
この経路は今後も利用価値がありそうだ。笹子駅には7時半過ぎに着いた。降りた登山客は私だけである。
駅前にはかなり詳細な付近の登山コース案内板が設置されていて、ありがたい。一応本日のコースを確認して、国道20号線を甲府方向へ歩き出した。
小学生の集団登校とすれ違う。元気な声で挨拶してくれて、こちらも負けずに“いってらっしゃい”と大きな声で返し、手を振った。笹子川を渡り右側に笹子鉱泉を見て、その僅か先が追分の分岐で、国道から離れ左折する。
標識に従い少々分かりにくい農道を進むと、やがて変電所への取り付け道路と合流する。立派な舗装道路である。
ダラダラとした上り坂の車道を一人歩くのは、山道に取り付くまで毎度のこととは云へ、愉快ではない。自然急ぎ足となるが、それでも駅から変電所まで1時間強を費やす。
変電所手前の高台から振り返ると、滝子山の三峰が大きい。その左にご坊山が実際より高く望まれる。マズマズの天気である。行く手の清八峠の稜線を見上げると、こちら側は北斜面の為、上部に点々と白い模様が付いていた。本社ケ丸は手前の山に隠れている。
道は一塊の高圧電線の直下を通過する。ビリビリと痺れそうで思わず駆け足で通過した。
広い車道は、変電所を過ぎ醜い人工護岸の沢ともう一本の沢を渡り終了した。その先は荒れた林道となる。車道終了点に数台の駐車スペースがあった。


コンクリート舗装の狭い林道を進むと、登山道の取り付き点を示す標識が木に打ち付けられていた。標識の指示に従い林の中に踏み込むと、とたんに明瞭な道は消えてしまい、複数方向への薄い踏み跡が錯綜していた。 私はそれぞれの踏み跡を数十メートル先まで偵察したが確信が得られないままに、周囲は平坦ながらも一番鞍部を辿る踏み跡を選んだ。カンである。
下山時に確認したところ、正しいルートは僅かながらも尾根筋を辿る踏み跡で、少し先には標識があった。だが私はこの時点では見落としていた。また、鞍部を辿る踏み跡も沢沿いから正しいルートへ合流できることを下山時に確認した。
正規のルートは一旦小沢を東に渡り、その少し上流で再び同じ小沢を西に渡り返して清八峠への小尾根へ取り付くように踏まれている。小沢の渡り返し箇所には立ち木にテープの目印があった。 私は鞍部の踏み跡から小沢に出、直接沢を遡上したのでこの目印を見落としのだ。沢筋には踏み跡が残らないのだ。
私は沢の遡上を続けたので、V字谷の奥へ入り込んでしまった。その時点で私は道を見失ったことを悟ったので、引き返す前に一応現在位置を地形図で確認した。そこでまた大きな誤りを犯してしまった。
サッサと引き返せばよかったのだ。20分も戻れば登山口に引き返せたのだ。
現在地の小沢は地図上の一本西側の沢だと思い込んだ私は、登山道が上流に向かって左側の尾根上にあり、その取り付き点を見過ごしたのだ、と思い込んでしまった。実際は反対の右側尾根が正しい登山ルートだった。
私は左側の尾根稜線を目指して沢へ落ち込む急斜面を木に掴まりながら強引に登ってしまった。こうして道を見失う典型的なパターンに嵌まってしまったのだった。


息を弾ませ稜線に辿り着いた私は、しかし首をかしげた。道がないのだ。だが微かに踏み跡はある。周囲の木には点々と番号札が付けられている。人が入っていることは間違いない。
どうやら尾根を間違えたようだ。再び地形図で現在位置を検討した。そこで初めて一本東側の尾根に乗ってしまったことにウスウス気がついた。
少し歩き、周囲を偵察した。すると、左右2本の木に赤ペンキで二重線がマーキングされているのが消え入りそうだが認められた。
このまま登ろう。先ほどの沢へは余りに急で下れない。だからといって、この尾根筋を戻ると変電所の辺りまで降りなければならない。そうなると今日の行動はそれで打ち止めだ。それでは余りにせつない。
私は自問自答していた。
一対の木に記された赤ペンキは何を意味するか〜その木と木の間を進め、と指示しているのではないか、たとえバリェーションルートでも主稜線へ辿ることが可能なのではないか。
さらに念入りに地形図を読む。上部の等高線は混んでいるが、岩稜を示す記号はない。尾根幅は広く痩せた部分もない。枝尾根も派生していないので迷う心配もなさそうだ。ええい行ってしまえ!
私は未知の山域の道なき尾根を登り始めた。


尾根は生育した杉と雑木が混在し、比較的疎林のために道がない割には歩き易い。暫く登った開けた地点で周囲の遠景を確認した。送電鉄塔がある西側の稜線が大分低くなってきて、その分こちらが相当高度を稼いだことを物語っていた。
西側手前下方に伸びる小尾根に目を転じると、展望地らしき場所にベンチを確認した。やはりその小尾根が正しい登山道だった。これにより現在地を間違いなく把握する事が出来た。
今や道に迷ったとは云えない状況だ。不安感はかなり払拭されていた。
だが、突然尾根の様相が一変した。さらに進んだその先は、植林が消え雑木が密生している。そして人が歩いた形跡が全く消え失せた。密生林への進入場所が見出せない。
私は暫し躊躇した後、イヤホーンラジオを点けた。関係ないようだが、この先音なしではいられない。不安を打ち消すのにラジオは充分役に立つ。だが番組は国会の民主党N議員懲罰委員会の中継だった。 あまりに今の状況とは不釣合いだ、仕方ない、最も特別中継がなければ甲子園選抜高校野球中継だ、今の私には大差はない。兎に角音が出ていればいい。私はヤブに突入した。


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