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奥秩父前衛の山 乾徳山  2031m  2004/11/03


   
        中腹の草原 扇平                     山頂直下の鎖場


コース
徳和公園駐車場〜徳和登山口〜国師ケ原〜扇平〜山頂〜扇平〜大平牧場林道〜道満尾根〜徳和公園駐車場
所要時間;7時間30分

乾徳山(ケントクサン)は奥秩父前衛の独立峰で、人気の高い山である。
嘗て、甲斐武田家の菩提寺として知られる塩山の恵林寺を開いた夢窓国師が修行した山とされている。
徳和の登山口から登ると、前半は深い樹林帯を、中盤は明るく開けた草原状を、後半は潅木混ざりの痩せた岩稜を辿り、そしてクライマックスに山頂直下20mの直壁鎖場が待ち構えている。
ようやくたどり着いた山頂では遮る物ない大展望が迎えてくれる。 標高も2000mを僅かであるが超えていて、アルプス的な高山の趣をも味わうことができる。
人気が高いのも頷ける、変化に富んだ山であった。
今回は長年の友人であるK.OHさんと一緒の、楽しくもあり辛くもあった、登山となった。

当日11月3日は文化の日、晴れの確立が高い特異日とされているが、最近はそうでもないらしい。この日は特異日の伝説は幸い守られた。特に甲府盆地は穏やかな好天に恵まれた。
相模湖の駐車場で6:00 に待ち合わせし、お互いに少し早めに到着したので、K.OH さんの車に乗り換えてちょうど6時に相模湖I.C から中央自動車道に入ることができた。
夜明けの空は笹子トンネル手前までは暗く垂れ込めていたが、トンネルを抜け出ると明るい空に変わっていた。 小金沢や御坂の山々が間近に黒々と聳えていたが、遠景の南アルプスまでは視界にない。だが、まずまずの天候である。
中央自動車道を勝沼I.C で降り、カーナビを頼りに徳和へ向かう。 K.OH さんの車に取り付けられたカーナビは、私の軽自動車本体の価格を上回ってしまうようなテレビも映る最新ハイテク機器である。進路変更の交差点500m・100m・10mの各手前・そしてピタリと交差点で案内音声が入る。
だが、最近開通したバイパス道路へ近づくと、カーナビはその手前から旧道を行くよう指示してきた。半信半疑でかまわずにバイパスに入ってしまうと、この道はまだデータ入力されていないので地図に表示されずに、音声案内も止まってしまった。
困った我々は仕方なく旧道へ引き返してみたが、相変わらず案内しないばかりか地図上の車両の位置さえ狂ってきた。 結局カーナビをリセットし、ようやく再び機能し始めた。
最新式のカーナビは、自分が出した指示に逆らう運転手に対しては反抗的になり、その後働くのを拒否してしまうのである。

徳和の集落には7:00 に到着した。バス停から川を越した側になかなか広い無料の駐車場があり、20台以上は置ける。既に数台先着していた。付近の公園に皇太子殿下の登頂記念碑が建立されていた。
徳和の集落は懐かしい山里の原風景で、清流沿いの斜面に数十軒の家屋が立ち並び、山と集落との境は段々畑で仕切られている。家々は皆裕福そうである。民宿も数軒見受けられた。
途中すれ違った少年が見ず知らずの登山者である我々にチョコンと頭を下げた。
駐車地から登山口までは林道を20分ほど緩やかに登る。案内標識がある。7:40 登山開始。

しばらくは植林帯を行く。林道を横断し、銀晶水と呼ばれる水場は申し訳程度の細い水流で汲む気がしない。
さらに上の錦晶水と呼ばれる水場は沢水で水流も豊富である。辺りは黄葉したカラマツが多くなる。登山道はよく整備されていて勾配も適度で歩きやすい。だが全ルートを通じてテーブル・ベンチなどの休憩施設が全く見当たらなかった。
さすがに人気の山、この日は紅葉シーズンの休日で登山者が多い。 数組のグループと抜いたり抜かれたりしながら登ったが、抜かれることの方が多い。我々はそう遅いペースではないが、この山は健脚が多いようである。我々の出立時間は比較的早かったので、まだ静けさは保たれていたが、我々が下山に掛かる頃には大勢の登山者が上がってきた。
勾配が緩くなり、樹林帯を抜けると本日初めて乾徳山本峰を眺められる原に出た。国師ケ原と呼ばれる場所である。山頂直下の巨岩も見分けることができる。
大平牧場(オオダイラ)への下山道との交差点を直進し、扇平(オウギッピラ)の草原が行く手に広がる。だが、そこから草原までは思いのほかキツイ登りであった。
扇平は明るく開けたススキの草原で、南側・西側の展望が良い。月見岩と名づけられた巨大な転石は格好の展望台である。ここまで登山口から約2時間、休憩にちょうど良い場所であった。
富士山の頂が雲を突き抜けて見上げるほど高い位置に望めた。休憩していた他の登山者に富士山が見えていることを教えた。だが、なかなか見つからない。予想をはるかに超えた天空に、既に冠雪した頂が浮かんでいたのである。
扇平を過ぎると登山道の雰囲気は一変し、険しい様相となった。ストックをザックに仕舞い込み、両手をフリーにして岩稜に備えた。

第一,第二鎖場ともに緊張するが、慎重に三点確保を守れば足場が豊富で危険はない。そのうえ短いので分けなく通過してしまう。とは言へなかなかスリルがあり、疲れを忘れてしまう。私は鎖場よりむしろ切り立った崖上の痩尾根通過に緊張した。
最初の鎖場手前で、扇平で休憩していた大平牧場方面から登ってきた十数人の見るからに逞しい男性グループに追いつかれたので、先行してもらった。 彼らは身なりから推察すると、登山経験があまりない集団にみえたが、パワーでグングン岩場を攀じ上がってしまった。彼らには三点確保など眼中になく、腕1本の腕力で鎖場をこなして行く。中途な登山技術など、パワーにはとても太刀打ちできるものでない。

大詰めの鎖場基部へは、扇平から1時間弱で着いた。見た目では、垂壁で20mほどの高さがあり、中段まで縦の亀裂以外には足掛かりがない。先行した男性パワー集団の後尾が順次鎖に取り付いていた。相変わらず無様な姿勢であったが腕力でグングンと攀じ上がっていく。その他にも少人数の2パーティが順番待ちしていた。 パワー集団は我々の参考にならないので、次の女性を含む3人パーティを良く観察した。中段で足掛かりのないスラブをどうしても2〜3歩右へトラバースしなければならないようだ。その先はホールドが豊富で鎖なしでも行けそうである。
だが、私の恐れていた状況である。
現在私は重篤な50肩を患っていて、腕の運動性が著しく損なわれている。服の着脱にさえ難儀している。無理な動作をすると、激痛が走る。
私はいままでの多少の経験から、足掛かりさえ得ることができれば鎖場でも腕力に頼らずに上ることが出来る。だがここでは、そうはいかないようであった。覚悟を決めるしかなかった。

K.OH さんが先行した。撮影のために途中で止まってもらった。彼は余裕の顔つきである。
私の番だ。縦のクラックを足掛かりにして難なくトラバース箇所まで登り、一息ついた。次いで息を詰め、右横に移動を試みた。腕に体重が載った。とたんにギクッ!左肩に激痛が走った。ヤッタァ!!恐れていた事態が起きてしまった。だが手を離すわけにはいかない。最悪でも鎖から手を離さずに無様にズリ落ちていくしかない。
激痛のまま鎖にしがみつき、必死に振り子のように体を横に振り、症状の軽い右腕でなんとかルート方向の突起を掴み、次いでやぶれかぶれで出した右足が運良く足場を捉え危機を脱した。夢中であった。移動成功は偶然としか思えなかった。
この先は足場が豊富である。激痛の腕を使用せずとも登り切ることが出来る。少し安心して上方を見た。K.OH さんがカメラを構えて覗いていた。何も気づいていないようである。次いで下を見た。順番待ちの人がこちらを見上げていた。何も気づいていないようである。
すっかり落ち着いた私は何事もなかったかのように装い、下で待つ人に声をかけた。「どうぞ!」
その後肩の痛みが抜けるまでに三日を要した。

山頂は狭い、とガイドブックにあり、既にパワー集団を含めかなりの人が山頂にいるようなので、我々は鎖場基部周辺で昼食休憩を取ることにしてザックをその辺にデポし、空身で上がった。
このことは私にとっては幸いであった。だが山頂の休憩スペースはまだ充分空いていた。山頂着11:00
我々は山頂標識を入れての記念撮影を済ませ、山座同定の検討を始めた。男性単独登山者が仲間入りした。
山座固定に必要な地図と磁石は置いてきたザックの中である。
まず私がアテズッポに「すぐ先のピークは黒金山で、その先の山頂が雲で覆われている大きな山は西沢渓谷を挟んで甲武信岳である」(おそらく正解)
「上流右手に連なる山々は大菩薩・小金沢連嶺である」(実は雁坂〜雲取に連なる奥多摩の山々)
彼氏「三ツ峠はどの方向でしょうか」
私「小金沢連嶺のさらに右手に見える山並みが御坂山塊でその一角である」(実はこの山並みが大菩薩嶺〜小金沢連嶺)
彼氏「三ツ峠の高さは確か---」
私「そう、1700mより少し高い」
彼氏「ここ、乾徳山山頂が2000m、向こうの山波のほうが高くみえませんか?」
私「---そういうこともあります」
この時点でK.OH さんも私の説明を疑ったようである。
彼氏「富士山はどの方向でしょう?」
「真南だから、この方向の雲の中である」と、K.OH さんが指差した。(正解)
「富士山がその方角でしたら、三ツ峠は方向からいってやはりその山で間違いないようですね」と私が間違えた小金沢山の方角を指して彼が云った。
私「----」
「あっ、あそこに雪がみえますよ!」彼が今度は反対側の徳和川源流域を指差した。
私「あの白い塊ですか?あれは雪渓のように見えますね、でも砂防ダムのようですよ。」彼氏を傷つけないよう言葉を選びながら答え、K.OH さんの顔を見た。噴出すのを堪えるのに大変であった。
彼氏「今日は北岳が見えませんね」
私・K.OH 氏「ほんとに、残念ですね」ようやくまともに皆が一致した。

下山は私が鎖を嫌い、鎖場の渋滞を口実に巻き道を選んだ。だが実際には巻き道などはなく、黒金山縦走コース側から岩峰基底部の潅木を分けて適当に回り込む他にルートはなかった。
扇平から往復する場合は、上り下りともに鎖場通過を覚悟しておいた方が良い。
パワー集団は黒金山縦走コースから分岐し、国師ケ原に至る下山道を選んだようだ。
昼食にK.OH さんから手作りの豚汁を頂いた。山ではほんとうにおいしいご馳走である。いつも申し訳ないと感謝しながらも、今回も自分の器は事前に用意しておいた。
扇平までは往路を下山し、そこから大平牧場の林道へ下り、さらに道満尾根を降りた。美しい樹林帯のコースだが、長い道程で疲れた。
扇平から先は急に静かになり、その後登山客と出会うことはなかった。
道満尾根の取り付き口に大きな真新しい‘クマに注意!’の看板が掲げられていた。
駐車地に戻り着いたのは15:00であった。笛吹川温泉で汗を流してから帰路に着いた。

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