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ま む し

横浜市の円海山一帯は栄区と金沢区にまたがった広い緑地が保全されていて、市民の憩いの場所となっている。鳥や小動物も多く見かけ、特にタイワンリスは数多く生息している。
適度に高低差のある地形は運動トレーニングにお誂え向きで、私もトレーニングを兼ねて散策へ出かける場所である。
時折登山靴を履き大きなザックを背負い足早に歩く者と出会う事がある。行きかう人々はなんと大袈裟なと、振り返るが、彼もまた登山訓練中なのだ。
ここは横浜港へ注ぐ大岡川と江ノ島へ注ぐ片瀬川の支流いたち川の分水嶺となる水源の森を形成し、それぞれの源流域には湿地が残されている。
散策路から森林へ分け入ると(禁止です)、人跡未踏のような場所が数多くあり、特にジメジメした場所はヘビ類の格好の棲み処となっている。
森の奥には真竹の群生地があり、その筍は味が濃く通好みの食材として珍重され、一般市場には出回らない品である。
孟宗竹より遅い梅雨の時期が収穫時で、この時期にはごく限られた男たちが鎌を片手にヤブを掻き分け秘密の場所へと入っていく。


池の下の東屋で二人の男が休んでいた。
「オウっ!いいの獲ったね!今日はどのへん入ったの?」
テーブルに無造作に投げ出された袋には5〜6本の立派な筍が納まっていた。
「いつもの所は大分減ってきたね、今日は向こうの山だよ」
もう一人の男が大鎌で示しながら云った。
「ああ、あそこはいい竹やぶがあるね、でもマムシのやろうが出て煩くないけ?」
最初の男が聞き返した。
「オウ、あそこいらはマムシのやつらの巣だらけだ、今日も筍を獲ろうとえたら、カマをもたげてきやがった、ケッかまっちゃいられねーよ」
かまわず筍を獲ろうとすると、しつこくカマをもたげて威嚇してくるでねーの、オレサマを威嚇するとは小生意気なやつだ、これでも喰らえと、で一払いくれてやったら、もう一匹いやがったんだな、スパッと切断されたカマくびが二つスッ飛んでいった」
「ざまーカマカマだ!」
「そりゃツガイだな、それともおカマかな、ケッケッケッケ」
もう一人の男が下品に笑った。
「そう云えばさっきまで其処にも一匹いやがったな」
最初の男が、私が座ったベンチの下を指差した。
かまわなければ、めったに襲ってくることはないけどな」
男は独り言のように付け足した。
私は次に来る時は鎌を用意しようと目論んでいたのだが、すっかりその考へを捨ててしまい、こそこそとその場を立ち去った。

2006/07/19 記、08/18 掲載

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